ヴェストワンカップ【WEST ONE CUP】西日本最大級メジャー麻雀大会 ベストワンカップ

(ヴェストワンカップ/ベストワンカップ)

2025WESTONECUP自戦記【杉 蔵之介】

皆さん初めまして。
麻将連合ツアー選手の杉 蔵之介と申します。麻将に関する文章を書くことは初めてなので拙い部分も多々あるかと思いますが最後まで一読いただけると幸いです。

杉って誰?って方が多いと思いますので自己紹介をさせていただきます。
麻将と出会ったのは15~6歳の頃。スーパーファミコンで「真・麻雀」というソフトを親が買ってきて遊んでいたのを見たのが最初です。「真・麻雀」というソフトは歴史上の著名人がCPUとなって対戦するゲームで事細かにルールの設定をできるものでした。そこでクイタンや先付け後付け、各種赤5などのベーシックなルールを覚えました。100万石や東北新幹線などのローカル役満を知ったきっかけでもありました。「真・麻雀」はKONAMIさんが作っており、門前限定で「357」を順子として三色を完成させると「コナミ役満」という謎めいた役満もありました。CPUには卑弥呼や項羽・劉邦、西太后など世界史に名を刻む傑物をあてがっていて、特に平賀源内はほんまに強かった記憶があります。

ちょこちょこ遊ぶ程度だったのも束の間、大学受験期間に突入し一切ゲームを禁止したため麻雀からは遠ざかっていました。再び麻雀と出会ったのは大学生の頃。当時バンドサークルと卓球サークルをかけもちしていた私は先輩からの誘いで授業後に麻雀をして遊ぶ機会がありました。ゲームでかじったことのある程度の私は当然右も左も分からないため連戦連敗。ひたすら悔しい思いをしました。現在とは違い20年以上前の戦術本はほとんどなく動画もない時代だったため何で麻雀を学んだか、というと漫画です。それこそ山のように読み漁りました。
「根こそぎフランケン」「天」「アカギ」「雀鬼」「天牌」「ノーマーク爆牌党」「麻雀新撰組」「むこうぶち」「兎」など数え上げればキリがない程の作品をじっくり読んで各登場人物の打つ麻雀を読んではそれを実践する。ひたすらその繰り返しでした。古の麻雀漫画には現代と違って麻雀を通じて人間を描くシーンの方が多く、その尖った人間性や垣間見える優しさなどに憧れる端から見たらどうしようもない若者でした。
フラフラと過ごしていた20代が永遠に続くわけもなく、東京で学生時代を過ごしていた私が関西の方の実家に帰る転機があり、そこで一度首までどっぷりつかっていた麻雀生活とは別れを告げました。仕事にも慣れ、ある程度の要職も任され生活も落ち着きだした30代に再び麻雀と出会いました。昔は知らなかった麻雀の戦術・技術に出会い、気まぐれで参加したアマチュア地方最強戦で優勝し東京のスタジオで麻雀を打つ経験をし、まだ梅田「菜の花」さんでヴェストワンカップ本戦初日に参加する経験をし、競技麻雀の魅力にはまっていく自分がいました。

そして麻将連合の試験を受け無事合格しツアー選手になった、という次第です。仕事を辞め、ノーレート雀荘で店長職を務め、関西の麻雀で少しずつ私のことを知ってもらえるようになり、後は結果(優勝)を出すべくしゃかりきに麻将を頑張っていた時代です。しかし20代の頃の怠惰な人生の反省は忘れずにいたため、40歳までに結果を出せなかった場合はきっぱり諦める決意もありました。しかし最高戦績は関西インビテーションカップ4位。その他マスターズベスト16,ヴェストワンカップベスト16と目標には及ばずで活動を抑える方向に向かった次第です。

今はとある市役所で仕事をしています。ここまで打ち込んだ麻将と完全に縁を切ることはどうしても出来ず、今は時間的にも生活的にも余裕があるときに細々と活動しているのが実態です。今の生活に不満も後悔もありませんが、いつか少ないチャンスでも結果を出せたときに今までの人生が少しでも報われれば、という思いで頑張っています。

さて、自己紹介が長くなりましたが本題である観戦記に移ります。
観戦記を書くにあたって、私の観点はこうです。こういう視点でこの5半荘を見たらまた一風変わった趣向が生まれるのではないでしょうか、というかたちで筆を進めていきます。賛否両論はあるでしょう。少しでも新しい気づきを提供出来たら幸いです。
冒頭でお話した通り、私の麻将の出発点は漫画です。数えきれないくらい麻将漫画を読んで培った麻将観は「最上のコミニケーションツール」です。麻将には打つ人の性格がよく表れます。半荘1回一緒に打つだけで「あぁこの方はこういう人なんだろうなこういう麻雀を打つんだろうな」というイメージがまがりなりとも生まれます。

ヴェストワンカップの準決勝は勝ち上がった自分を除く15名と必ず対戦するためその人となりをはっきり経験としておくことができ、それがそのまま決勝の戦略に直結します。
決勝に臨むにあたっての私の観察眼は以下でした。
國分プロ→超メリハリ型。勝負手のときはどこまでも攻める。逆に勝負手ではないと判断した際は徹底的に守る。自分の芯はほとんど曲がらない強い意志を持つ。
都築プロ→現代麻雀をしっかり勉強しているオーソドックス型。「勝ちたい」っていう気持ちが全面に出る気迫あふれた麻雀。その気持ちが決勝にどう作用するか。
もんごるさん→全局参加型。もちろんただ和了に向かって全ツッパするわけではなく後手を引いても隙あらば加点を目指すバランスの良い麻雀。押しているか引いているか、本手なのかかわし手なのか中々特徴がつかめない百戦錬磨タイプ

では私はどう対応するか。
・押さえつけるリーチや鳴きはあまり効果を発揮しない。
・河に細工を施して出あがりをとる戦略は効果を発揮しにくい。
押すときはまっすぐ、引くときは徹底の3者。親につきリーチのみ愚形、や遠い染め仕掛けなどはきっちり対応されるか本手に潰されるかのパターンが多い。浮足立った攻撃はしてはならない。
焦らずしっかり和了できる手を作ってぶつけていくこと。
このことを心に決めて就寝しました。

当日は全く緊張していませんでした。ただただ楽しもう、と。
開始前の選手インタビューも普段通り、心臓の高鳴りもない。
「よし、いける!」
1回戦
いきなり心に決めたことが崩れるシーンがありました。
序盤は軽い仕掛けで聴牌を組まずしっかりリーチをして和了する理想的な進行。「よしよし落ち着いている、大丈夫だぞ」と自分に言い聞かせて局を進めていきます。

問題のシーンは南3局。
先制リーチは國分プロ。特にためらう様子もなくさらっとドラを切りリーチを宣言。

國分のリーチを受けた数巡経過した後のこの牌姿。

リーチ宣言牌のドラ5sに対して9sを押してこの形にたどり着きました。最高形は5sを引いた高め456のタンピン三色。しかしマンズの上が通り、待ちはピンズ濃厚。ソーズ無筋はドラまたぎのみ。前述の通り國分プロのリーチはちゃんと形が整っている可能性が高いため、放銃はトップ陥落を覚悟する必要があります。
この手で5pを押すのは見合わないと判断し現物の2sを切りましたが、次巡5sツモ。
同巡無情にも國分プロから放たれる4s。
ここで打6sはなかったのか。ドラまたぎの3-6sは無筋だが、國分プロがリーチ前に2枚放たれている3sを目にしてノータイムでドラ切りドラまたぎ待ちリーチをするのか。私はそこに思考が及ばずノータイムで2sを切ったことに対して強い自責の念を覚えていたことをはっきり記憶しています。
一度狂った歯車はなかなか元に戻りません。
まずはあいさつ代わりの流局一人ノーテン。焦りが加速していきます。

続いて南4局1本場。
もんごるさんの先制リーチ。

都築プロは4pをチーした後9pをポンして応戦するもその後も終始迷いながらの打牌。恐らくノーテンorケイテン濃厚。そこで私はこのテンパイから打6p。

「6p???」
このとき焦りのあまり自身の思考回路がすでにショートしていることがよく分かります。都築プロは色染めで発進したもののもんごるさんのリーチを受け、苦しいながらも必死にテンパイをとろうとしているのが明白です。ここで私が捨てる6p。これは敵に塩を送っているようなものです。塩ではなく毒を送って自身のアガリを最大限に高めるならば問題ありません。しかし私のテンパイは2枚切れのカンチャン。そしてフリテン。圧倒的フリテン。どう考えても見合っていません。
そのまま流局。次々局都築プロの4000オール。

結果は2位でフィニッシュ。最悪の立ち上がりです。
私は各種予選会のような1日数半荘で勝敗が決定される麻将は、1回戦に非常に重きを置いています。勝つための第一歩で踏み外すとまずその日は勝てないと思っています。勝てたとしても相手のミスなど目に見えない偶然がうまく作用しただけで嬉しさよりも悔しさが勝ります。
そして今日は決勝。相手は強い。
「ここからは相当に苦しい麻将になるだろう。しかし何とかしてやる!」
こう気持ちを切り替えて2回戦以降に臨みました。
しかしここからは覚悟していた通り無情な展開が続きます。
2回戦オーラス→逆転の条件を満たすチートイの単騎選択を外します。そのまま3位に転落してフィニッシュ。

3回戦東1局→早々に三暗刻が完成して東をあわせるも何も重ならず唯一東だけが四暗刻への架け橋でした。

そのまま鳴かず飛ばずの3位フィニッシュ。
4回戦→何とかカン6mテンパイで親を維持できたかと思いきや悪夢の海底倍満親被り。4位フィニッシュ。

厳しい…
4回戦を終えてのスコアはこちら。

私の優勝条件は國分プロを4位にして38200点以上の差をつけ、かつ都築プロを3位にして32700点以上の差をつける1位になること。國分プロと都築プロの順位が入れ替わった場合には國分プロと58200点以上の差をつけなければなりません。
そして私起親スタート。
あまりにも厳しい条件戦の最終5回戦が始まります。
東1局から大チャンスが訪れます。なんと國分プロから7700を直撃できたのです。この時はもんごるさんからだけは見逃すつもりでした。

7700の直撃で15400点差をつけトップラス。目標は後22800点。
6000オールやん!
そして東1局1本場。もんごるさんの早いリーチが飛んできます。

もうこれはリーチはないものとして自己都合で手を組むしかありません。そしてツモれば6000オールのテンパイが次局に入ります。

なんであの配牌がチートイになんねん!て心の中でつっこんだのは内緒です。
宣言牌4pのもんごるさんのリーチに引くことはないのですが、もんごるさんのリーチに何が何枚あるかを推測する必要があります。守るときはしっかり守る國分プロと都築プロ。おいそれと宣言牌の筋の7pが出てこないことは承知していましたが7p結構ツモれるのでは?とも思っていました。しかし一向に姿を現さない7p。宣言牌を加味すると持っていてもおかしくはないので、じゃあ7p以上にツモれそうな牌はなんですか、と。
分かりません。
当然打点が高すぎるのでもんごるさんからのロン和了はできません。長考を入れて時間をあげ、冷静にする時間を相手に与えるのは嫌なので待ち番の中で脳みそをフル回転させます。そこで引いた5s。前局國分プロから直撃がとれた5s。

「奇跡にかけるか…」
理屈はありません。ただその局の時間がないことだけは分かっています。あの選択が一番楽しんで選べたことだけははっきり覚えています。

奇跡は起きました。24300+リーチ棒の和了です。ドラ表示牌の並べ方が汚いことを心よりお詫び申し上げます。

國分プロが3位になったので目標まであと17500点となりましたが後4000オールをあがれば並ぶところまで登ってきました。
このまま無限連荘編に突入できれば苦労しないわけですがさすがに親が落ちてしまいます。

残す作戦は2つです。
1:都築プロにあがってもらって國分プロを逆転してもらう。
2:このままもっとあがって17500点差を目指す。
もんごるさんには加点してもらいたいので親を安い手で落とす行為はしない、という点は共通です。
東二局。
今度は都築プロのリーチです。

河にヒントはありません。が、マンズはドラが絡むカン8mだけ注意かなというのが直観的に思いました。3mから離した宣言牌の1mが暗刻から外した可能性が高く、だったら7m先切りしたまたぎには今まで見てきた麻雀から考えにくかったわけです。
待ちはピンズかソーズか…これまた分かりません。
自身の手は純チャン一盃口の1シャンテン。
危険な6sをツモ。

続いて危険な8pをツモ。

この時点で撤退もありましたが育てばマンガン以上の手。もう一枚危ない牌を引いたらさすがに撤収ですが、純チャンルートが残る場合は目をつぶって押そう、と思っていました。それで仮に都築プロに放銃したとしてもそれがきっかけ(?)で國分プロを逆転すれば例え8000点失っても順位点で12000点縮まるやん、と。かなり前向きな思考で6sを切りました。
東3局は手なりリーチで1300和了。

東4局は國分プロに自由に打たせないかつ高打点が見えるホンイツ仕掛けを敢行。
トイトイをつけてマンガンにしたい。狙い通りのトイトイのテンパイに対してやってくるはもんごるさんのリーチ。

なんて気持ち悪い河だ…高いのは明白だしこちらの待ちは超がつく愚形。点差もあるし見逃せないのでこの局は唯一もんごるさんからのロン和了も辞さない局でした。
運良くマンガン和了。もんごるさんの2着が危ないけどそこは良しとするしかありませんでした。
南1局、南2局は都築プロの連続和了。

國分プロと都築プロの点差が5700点差になりました。
これはこれで良し。元より綱渡りの条件戦のため逆転優勝のルートがいくつかある方が有利(なはずと自分に言い聞かせてました。是非については一考の余地しかありません)と考えていました。
そして南3局です。
早い國分プロのリーチが飛んできます。

「これで決める!」
まるで声が聞こえてきたようでした。
「では最後の闘いをしましょう」と言わんばかりに6mチー。

10002000ツモはオーラスマンガンツモ条件。
3900直撃はオーラス1000点直撃か10002000ツモ条件。
被ツモor放銃はTHE END。
闘わない手はありません。遠くても目指すしかないんです。
「お?マンガンになったぞ?」

「お?テンパイしたぞ?」

追いつきました。
正直ドキドキはしませんでした。こっちの分が悪いのは100も承知です。すでに和了抽選を何度も受けている國分プロとこれから和了抽選を受ける私。國分プロの方が有利(と思っていました)です。
勝利の軍配は國分プロへ。

優勝は國分プロでした!!私は準優勝でした。
振り返っての結果論でしかありませんが、やはり1回戦が尾を引いたな、と思い同時にこれが今の実力だなととても納得した結果に終わりました。反省点が明確な以上悔しさはありませんし、最後まで優勝戦線に立てたことに満足しています。

初めての観戦記にとても熱が入り果てしない長文になりました。もし最後まで読んでいただけた方がいらっしゃいましたら感謝しかありません。ありがとうございました。
こういった執筆活動も実は好きですし、麻雀レッスン、ゲストのお仕事は(土日限定ではありますが)募集しています。気軽にエックスのDMお待ちしています。
主催者の方々、実況解説の皆様、参加した選手の皆様、改めてどうもありがとうございました。

WEST ONE CUP